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Si je tombe dans l'amour avec vous

C-7-2 出産

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 何事もなく、順調に私のお腹の中で育っていた子供。

 その子が生まれるのを誰よりも楽しみにしているのは、他の誰でもなく智とお父さんで、お父さんは私の成長を見守れなかったという理由と、初孫の成長を見守りたいという理由だけで、あっさりと海外での医師生活に終止符を打った。

 とは言っても、どうしても自分でなければダメだと言う手術や要請があれば、都合を付けて手伝いには行くらしく、それ以外の時には、氷川産科婦人科に籍を置くらしい。その話を直接お父さんから聞いた時には、そのあまりの潔さに声さえ出なかった。

 


 ならばと、同居を言いだしたのは智で、仕事で何かと忙しい自分の代わりに傍にいて欲しいのだと、「そこまで迷惑はかけられない」と渋り、遠慮するお父さんを、なんとたったの半日で口説き落とした。

(全く、何処まで過保護なの?智は。大丈夫なのに。)

 すっかり妊婦らしく、大きく張り出したお腹を時折撫で擦りながら、私はワインレッドの毛糸でマフラーを編んでいた。


 予定出産日は12月の29日。

 予定日までまだ2週間もあるのに、初産だからと、私は糸帆さんを始め、いろんな人に絶対安静を言い渡された。

 元来、何気に動く事が好きだった私は、それがストレスとなったのか、最近は特に眠りが浅い。今日などはたったの二時間しか寝ていない。

  
 今、この家には誰もいない。
 少しだけなら、庭を歩くだけなら、ごちゃごちゃと煩く言われないわよね?

 外は絶好の散歩日和で、12月だと言うのにポカポカと暖かそうな日差しが降り注いでいる。

(あぁ、温かそう。あぁ、いいなぁ~。ちょっとだけ。そうちょっとだけ。)

 そのちょっとだけ。が、いけなかった。

 そろそろと、ゆっくり揺り椅子から立ち上がった瞬間だった。

 ヅクヅク、ズキズキとした断続的な痛みが襲ってきたかと思いきや、バシャッと、突然大きな水音がして、破水した。

 破水したと言う事は、出産が近いと言う事。

 この突然の出来事に私はすっかり混乱し、どうすればいいのか判らなくなってしまっていた。
 家には誰もいないし、誰かが訪ねてくると言う約束もない。
 電話をして、病院に連絡すると言う、ごく普通で、当たり前な手段さえ思い浮かばなかった。

 一人と言うのが、こんなに心細いことだとは、今の今まで私は知らなかった。
 それでよく一人で生きて行くと、あの時は思えていたものだ。

 誰か、助けて。
 誰か、誰か。

(智、助けて!!)

 誰か助けてと思いながら、私は智に助けて欲しいと願っていた。


 産まれてくる子が、男なのかそれとも女なのか、どちらなのかは生まれてくるまでの楽しみにしていると微笑んだ智。

 この世に生まれる事の出来なかった子の分まで、精一杯愛してあげようと言っていた智。


 ズキズキとした断続的な陣痛は、時が経つに連れ、襲ってくる痛みの感覚が短くなってきている気がする。

 出産の事を取り扱っている本では、5分から3分置きになったら、出産まで間もなくだと書いてあった。

 そんな事を色々と思いだしながら、必死で痛みを堪えていた私の耳に、誰かが家に帰ってきたのか、足音が耳に届き、入ってきた。

 その足音を察するに、恐らくは男性なのだろう。
 糸帆さんなら、もう少し軽い足音の筈。

 でも今は誰でも良いから、とにかく助けて欲しかった。

 その願いが通じたのか、立ち往生し、痛みに耐えていた私がいた部屋に入ってきたのは、川幡さんだった。

 川幡さんは、私の様子がおかしい事をすぐに感じ取り、私の近くまで歩み寄るなり、全ての状況を瞬時に把握し、私に確認してきた。

「奥様、陣痛は何分置きですか?」

「10分、切りました・・・。」

「かかりつけの病院はどちらですか?ここから近いですか?」

「氷川、病院です。ここからっ、30分位、です。」

 途切れ途切れに答えれば川幡さんは顔を歪め、「失礼します」と私に断った上で、私を横向きに抱えあげた。

 それに驚いたのは私だった。

 幾ら男性とはいえ、川幡さんはもうお年寄り。
 無理をしては動けなくなる。

 そんな私の心配をよそに、川幡さんはスタスタと歩き、運転してきたであろう車に私を後部座席に乗せ、そのまま病院へと車を走らせた。

「奥様、人は緊急時には百パーセントの力を出せるようになっているのです。ですので、私の心配は良いので、どうかお耐え下さい。病院にはすぐに着きますから。」

 静かで、でもどこかいつもより落ち着きのない川幡さんの声に、私は小さくお礼を言って、徐々に短くなって来る陣痛の痛みに耐えつつ、歯を食いしばり、意識を失わないよう頑張っていた。

 もう、この車がお義父様の送迎用の高級車で、接待に使う車だとか、そんな事すらどうでも良くなっていた。

(痛い、痛い、痛い!!)

 どうしてこんなに痛いの?
 どうしてこんなに苦しいの?
 どうして、どうしてっ!!

 同じ考えがグルグルと頭の中で駆け巡っていた私の心を宥めてくれたのは、いつの間にか到着していた病院のスタッフ達だった。

 その人達は手術着に身を包み、真剣な顔で私を見守っていた。

「平さん、頑張って。赤ちゃんも頑張ってますからね!!」

「この痛みに耐えてこそ、お母さんになれるのですよ!!」

 お母さん・・・。
 そう、私はお母さんになれる・・・。

 あぁ、赤ちゃん。
 私と智の赤ちゃん・・・。

「私、頑張る・・・。」

「そうですよ、一緒に頑張りましょう!!」

 吸って、吸って、吐いて。
 吸って、吸って、吐いて。

 幾度もラマーズ呼吸を繰り返し、息が止まりそうで、失神してしまうかもしれないと言う痛みが私を襲った時、高らかな産声が、分娩室中に響き渡った。

 その瞬間、わっ、と、病院内スタッフが湧いた。

 可愛い女の子ですよ、と、言う声が聞こえた様な気がしたけど、その時の私は既に力尽き、夢の園へと旅立っていた。

 こうして私は初産にして、4時間と言う至ってハイスピードで出産を終えたのだった。
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