Si je tombe dans l'amour avec vous
C-6-8 旧友との再会
「せんせい、すみれせんせいはアイジンなの?」
子供の悪気のない言葉が、私の心を波立たせる。
退院してから5日。
私は氷川先生から紹介された精神科の先生に勧められ、職場復帰した。勿論、最初はこう何度も問題を起こす私を、保育所が受け入れてくれるかは不安だったけれど、なにぶん、女性の比率が多い職種とだけあってか、当然のように私を何も言わずに迎え入れてくれた。
子供の悪気のない言葉が、私の心を波立たせる。
退院してから5日。
私は氷川先生から紹介された精神科の先生に勧められ、職場復帰した。勿論、最初はこう何度も問題を起こす私を、保育所が受け入れてくれるかは不安だったけれど、なにぶん、女性の比率が多い職種とだけあってか、当然のように私を何も言わずに迎え入れてくれた。
でも、それはあくまで先生達とごく一部の園児達だけであって、他の子供達は以前の様には、私に近づかなくなった。
その中での今回のこの質問。
完全に癒えきれていない私にとって、その言葉は聞くだけでも苦痛をもたらすものだった。でも、それから目をそむけ、耳を塞ぎ、心を完全に閉ざし、外に出ず内に籠ると言う事は、全てから逃げ、さらに自分を自分で追い詰め、加害者の勝利に貢献してしまう事だと先生に諭され、私は勇気を振り絞って今ここに立っている。
近くにいた他の先生達は、私の無断欠勤の理由を知っているが故に、どう対応していいか迷っているのか、私に問いかけてきた園児をどうにも出来ないでいた。
私は震えそうになる声と身体をそのままに、質問してきた子の視線に合わせるように床に膝をつき、そっとその子の頬に触れた。
相手は小さな子供。
それを感覚的にも確かめて。
「先生は『愛人』なんかじゃないわ。」
「でも、ママがゆったもん。せんせいはアイジンだからちかづくなって」
以前メディアによって流された情報は、世間はそれを真実だと受け入れたらしく、私が復帰したと知るなり、保育所には非難の電話が相次ぎ、教育委員会や役場の人達も忠告にしに来た。それでも所長は私を庇い、解雇はしなかった。
その恩に少しでも報いる為にと、私はこの小さな子でもわかる様に言葉を選んで紡いだ。
「先生はね、今は確かに結婚してないけど、今一緒に住んでるのは、前に結婚してた人なの。」
「・・・、わかれたのに、いっしょに住んでるの?」
そんなの変だよ、と、口を尖らせる子の頭を恐る恐る撫で、苦笑いを漏らした。
きっと小さな子達にはまだ解らない感情なのだろう。でも、似た様な感情は既に理解している筈。
私は一度深呼吸して、再び口を開いた。
「けん君は、お友達とケンカしない?」
「ケンカ?するよ。たまにだけど。それがどうしたの?」
関係ある話なの?と、その円らな瞳は私に問いかけてくる。その目を見て私は感じた。
この澄んだ瞳の持ち主に、ウソはつきたくない。例え、判ってもらえなくても・・・。
「先生は旦那様と大きなケンカして、一度他人になったけど、仲直りしようって決めたの。だから、先生は『愛人』じゃなくて、『婚約者』かな。仲直りが完全に出来たら、またお嫁さんにして貰うの」
「なーんだ。それならパパとママといっしょだね。ぼく、ママにいっておくよ。せんせいはママと同じだって。」
にかっと、太陽の様に笑う男の子に、私は自然と張りつめていた緊張をゆるゆると解いた。
自然と顔の強張りも溶けてゆく。
「それ、本当なんですか?」
判ってもらえたと、笑みが浮かびそうになった時、その冷たい声は聞こえてきた。でも、その声は何処かで聞きお覚えがあって。
あっと、思った時には、その人の名前を口にしていた。
「灯《あかり》、灯 でしょ?何年ぶりかしら。懐かしいわ」
正義感が強くて、多くない私の友人の中でも、特に綺麗で真直ぐだった人。
人伝に彼女も結婚したと聞いたのは、確か昨年の春の初め。
懐かしい旧友との再会に喜ぶ私に引き換え、私に突然声を掛けられた人は固まり、そして私を上から下まで舐めまわすかのように見て、いきなりガバっと頭を下げ、叫ぶようにして謝罪してきた。
「ごめんっ。本当にごめん。吉乃だっただなんて。あの御曹司の愛人がまさか、吉乃だっただなんて。ほんっとうにごめん。」
意味が判らないない人から見れば異様な場面。でも、私にはきちんと伝わったし、理解出来た。
「まさか愛人だと思ってた人が、私の友人で、しかも御曹司の妻だったなんてっ」
伊角 灯。
この彼女との再会が、私の長きに渡る不幸を追い払ってくれる事になるとは、この時の私は思いもしなく、ただただ、旧友との再会が嬉しくて堪らなかった。
その中での今回のこの質問。
完全に癒えきれていない私にとって、その言葉は聞くだけでも苦痛をもたらすものだった。でも、それから目をそむけ、耳を塞ぎ、心を完全に閉ざし、外に出ず内に籠ると言う事は、全てから逃げ、さらに自分を自分で追い詰め、加害者の勝利に貢献してしまう事だと先生に諭され、私は勇気を振り絞って今ここに立っている。
近くにいた他の先生達は、私の無断欠勤の理由を知っているが故に、どう対応していいか迷っているのか、私に問いかけてきた園児をどうにも出来ないでいた。
私は震えそうになる声と身体をそのままに、質問してきた子の視線に合わせるように床に膝をつき、そっとその子の頬に触れた。
相手は小さな子供。
それを感覚的にも確かめて。
「先生は『愛人』なんかじゃないわ。」
「でも、ママがゆったもん。せんせいはアイジンだからちかづくなって」
以前メディアによって流された情報は、世間はそれを真実だと受け入れたらしく、私が復帰したと知るなり、保育所には非難の電話が相次ぎ、教育委員会や役場の人達も忠告にしに来た。それでも所長は私を庇い、解雇はしなかった。
その恩に少しでも報いる為にと、私はこの小さな子でもわかる様に言葉を選んで紡いだ。
「先生はね、今は確かに結婚してないけど、今一緒に住んでるのは、前に結婚してた人なの。」
「・・・、わかれたのに、いっしょに住んでるの?」
そんなの変だよ、と、口を尖らせる子の頭を恐る恐る撫で、苦笑いを漏らした。
きっと小さな子達にはまだ解らない感情なのだろう。でも、似た様な感情は既に理解している筈。
私は一度深呼吸して、再び口を開いた。
「けん君は、お友達とケンカしない?」
「ケンカ?するよ。たまにだけど。それがどうしたの?」
関係ある話なの?と、その円らな瞳は私に問いかけてくる。その目を見て私は感じた。
この澄んだ瞳の持ち主に、ウソはつきたくない。例え、判ってもらえなくても・・・。
「先生は旦那様と大きなケンカして、一度他人になったけど、仲直りしようって決めたの。だから、先生は『愛人』じゃなくて、『婚約者』かな。仲直りが完全に出来たら、またお嫁さんにして貰うの」
「なーんだ。それならパパとママといっしょだね。ぼく、ママにいっておくよ。せんせいはママと同じだって。」
にかっと、太陽の様に笑う男の子に、私は自然と張りつめていた緊張をゆるゆると解いた。
自然と顔の強張りも溶けてゆく。
「それ、本当なんですか?」
判ってもらえたと、笑みが浮かびそうになった時、その冷たい声は聞こえてきた。でも、その声は何処かで聞きお覚えがあって。
あっと、思った時には、その人の名前を口にしていた。
「灯《あかり》、灯 でしょ?何年ぶりかしら。懐かしいわ」
正義感が強くて、多くない私の友人の中でも、特に綺麗で真直ぐだった人。
人伝に彼女も結婚したと聞いたのは、確か昨年の春の初め。
懐かしい旧友との再会に喜ぶ私に引き換え、私に突然声を掛けられた人は固まり、そして私を上から下まで舐めまわすかのように見て、いきなりガバっと頭を下げ、叫ぶようにして謝罪してきた。
「ごめんっ。本当にごめん。吉乃だっただなんて。あの御曹司の愛人がまさか、吉乃だっただなんて。ほんっとうにごめん。」
意味が判らないない人から見れば異様な場面。でも、私にはきちんと伝わったし、理解出来た。
「まさか愛人だと思ってた人が、私の友人で、しかも御曹司の妻だったなんてっ」
伊角 灯。
この彼女との再会が、私の長きに渡る不幸を追い払ってくれる事になるとは、この時の私は思いもしなく、ただただ、旧友との再会が嬉しくて堪らなかった。
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