スポンサー広告

スポンサーサイト

 ←B-1 最悪な出逢い →C-1-4 距離
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png あいさつ
もくじ  3kaku_s_L.png My Girl
  • 【B-1 最悪な出逢い】へ
  • 【C-1-4 距離】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit

Si je tombe dans l'amour avec vous

C-1-5 離婚届

 ←B-1 最悪な出逢い →C-1-4 距離
 初めて智と逢った時、私は智の虞となり、同時に強い恋心を抱いたのだと、今なら素直に思える。

 だからこそ、私は心に何重にも鍵を掛けた。
 
 決して傷付かないように、期待しないように、と。
 
 けれど、その心の鍵は既にボロボロに錆び、限界を迎え、朽ち果てる寸前だった。

 ならば、残された道は、選ぶ道は一つしかなかった。

 したくもない決断を、私は「あの人の為に」、と、下して、逃げた。


 

テーブルには、温かいご飯と、あの人が好きそうな料理。

 好きそう、というのは、この三年間、ろくに会話すらしていなかったから、好きな食べ物や好みが判らないから。
 同じ家に暮らしながら、会話らしい会話は殆どしなかった。

(これで夫婦だなんて・・・。)

 それも今日で終わりだと思えば、少し寂しい。

 その為に、今日は会社側に無理を言って休み、一日を掛けて私物をまとめ上げ、私が住んでいた痕跡を綺麗に消した。

 最後の仕上げに、私は少しだけ化粧をして、あの人を出迎える。

「お帰りなさい、智さん。」

 出来る限りの笑顔を浮かべ、仕事から帰ってきたあの人を、智を迎えた。

 おそらく結婚式以来の微笑みで、私は智を見上げていたのだろう。

「お仕事お疲れさまでした」

 普段とは異なる私の態度に、智はじっくりと観察し、まるで壊れ物を扱うかのように抱きしめてくれた。
 
 存在を確かめつつ、そして、決して離さないという意識が伝わってくるような、温かい抱擁。
 
 その抱擁は、私が病気を知る前だったのなら、素直に受け入れられていた。
 でも、もう私は知ってしまった。

(もう、過去には戻れない・・・。)

 愚かにも、勝手に抱き返そうと動き出していた手を、ギリギリのところで抑え、智の肩にかけ、やんわりと突き放す。

「吉乃・・・?」

 ここで疑問を持たない人間なんて、誰もいない。
 智だって気付いてる。
 それでも私は辞めない。

「ねぇ、智さん。私の事、少しだけでも愛してくれてる?」

(私は、狡い。)

 憎んでくれてもいい。
 いや、憎んでほしい。

 解っていても、どうしてもこの手を使わずにはいられなかった私を。

(ごめんね、貴方は最初から優しかったのに。最初から最後まで・・・。)

 身体を重ねなかったのは、私が初夜の日にフラッシュバックを起こして拒否したり、体調が優れなかったから。

 それを私達の中に愛がないと勝手に決め付け、すり替えたのは他ならぬ私。

「智さん、離婚して下さい。」

 この言葉は、私から貴方への、最初で最後の愛の言葉。

「愛してるなら、私と別れて下さい・・・。」

 心の奥底では、別れたくないと泣き叫んではいるけど。
 これは貴方の、智の為だから。

「私、好きな人ができたんです。お腹に、その人との子供もいます。彼となら、私、幸せになれるような気がするんです。」

 極上ともいえる微笑みを、必死に作って、浮かべた。

 その必死な一世一代の演技は見破られることも無く、相手を確実に傷付けた。

 どれだけ時間が経った頃だろうか。

 智が出した答えは、私を驚かせ、そして安堵もさせ、少しだけ狼狽させた。

「吉乃、別れるも何も、俺達は最初から夫婦でもない。だから勝手にしろ。」

(今、何て言ったの?最初から夫婦じゃなかった?)

「お前と夫婦だった事など一日たりともない。目障りだ。さっさと出て行け。」

 苛烈な怒りと言葉。

 その言葉が、声が、私を徐々に支配し、そして、最後に私の表情を完全に支配した。

 心とは正反対の、とても穏やかで、幸せを掴んだような微笑みと口調で、私は別れの言葉を口にした。

「今日まで一緒にいて下さり、ありがとうございました。いつまでもお元気で。幸せになって下さい。」

 頭を下げ、スタスタと寝室に荷物を取りに行き、一応、記入済みの離婚届をダイニングテーブルに置き、私は智に真実も行き先も告げずに、家を出た。

 外は雨が降っていたけれど、それは今になって溢れ出した涙を隠すには、都合が良かった。

 まるで、お風呂の浴槽が引っくり返されたカのような、激しい雨に打たれながら歩き、私が辿り着いた場所は、つい先日、運び込まれたばかりの罹りつけの病院だった。

 緊急搬送口兼入り口に、びしょ濡れ姿で現れた私を見つけるなり、その場に偶然居合わせた看護師さんは、私の傍まで走ってきた。

「菜々宮さん?こんな時間にどうされたんですか?」

(驚くのも、無理ないわよね・・・。)

 ただでさえ、診察時間は過ぎているというのに、更に私は大きな鞄を持っている。

「まさか、入院しに来たの・・・?」

 信じられない、と、その声は感情を伝えていた。

 私はその言葉を肯定するようにゆっくりと頷き、決意を込めた、しっかりとした声で返事をした。

「よろしくお願いします。もう、身体中が痛くて、我慢できないんです。」

 大切なものは全て捨ててきた。
 だから私はもう、何も怖くない・・・。
 
スポンサーサイト
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png あいさつ
もくじ  3kaku_s_L.png My Girl
  • 【B-1 最悪な出逢い】へ
  • 【C-1-4 距離】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【B-1 最悪な出逢い】へ
  • 【C-1-4 距離】へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。