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Si je tombe dans l'amour avec vous

C-5-6 衝動

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  ――サクリ、サクリ。

 数年ぶりに降り積もった雪の上を歩く。

 もう少しすれば太陽が昇ると言う頃、私は上着も羽織らず、屋上にポツンと一人でいた。



  吐く息は白く、指先は冷たい。
 でも、それももう少しで感じなくなる。

 もうこの世に未練はない。
 だから決めたのだ。
 この世に未練がないのなら、あの子の傍に行こうと。

 謀らずとも私のその決意を押したのは、皮肉な事に、父親であるあの人の言葉だった。


 ――償うから。

 その言葉が私の決意を固めてくれた。

 逃げていると思われても構わない。
 不幸に酔っていると言われても構わない。
 何故そこまで、と言われても。

 ただただ、酷く寂しく、寒い。

 それしか言えないのだから、どう言われようと、問われようとも答えようがない。答えもない。

 きっと、それくらいの事でと言う人はいるだろうけど。
 私にとってはそれくらいの事では済まされない。
 この痛みや孤独は、経験した人にしか解らない。

 カシャン、と、震える指先がフェンスに触れる。

(もう少し、もう少しで逢えるわ・・・。待っていて、朔也。)

 男の子でも、女の子でも使える名前にしようと、シェアハウスの皆で、名付け辞典を見ながら決めた、たった一人の為だけの名前。

 その名を胸中で呟きながら、フェンスに足を掛けた時。

「吉乃ちゃんッ、」

 吹き荒れる風と共に、屋上と院内が繋がる扉が開かれた。
 そして、そこにいたのは、顔色を真っ青に染めた建川先生と智、そして千代田さんこと、七海と担当医の先生、紘人さんの5人だった。

 紘人さんに至っては、今にもこちらに飛びかかってきそうだった。

「何をしに来たの・・・?もしかして、止めに来たとか・・・?」

 そんなワケないわよねぇ?と、定まらない視線で皆を見て、フェンスの向こう側に意識を向ける。
 
 この世に未練はない。一刻も早く傍にいってやらなければ。
 きっとあの子は待っているだろうから。

(さぁ、逝くのよ。吉乃)

 目をぎゅっと閉じ、覚悟を決める。

 痛いのは多分一瞬。
 それさえ越えれば、後はお母さんも、あの子も待っている所へ行ける。
 
「そんなに生きるのは嫌なのかい」

 あぁ、だと言うのに、この人達はそれを阻む。

 一体、私を止めてなんの特になると言うのだろうか。
 私なんかいない方が良いに決まっているのに。
 それを否と言うのなら、きっとそのヒトの考えは狂っているに違いない。

「君はどうしてそんなに自分を自分で責めるんだい?」

(私が私を責めている?違うわ。私は、)

「それとも、死んでしまった子供に申し訳がないから、それを謝る為に自分の命を断とうとしているのかい?でもそれは極めて死んだ子にとっては、冒涜な行いなんだよ?」

 それを理解した上で、それでも尚、君は死を選ぶのかい、と、静かな声で諭されれば、心が揺らいでくる。

 それを見て取ったのか、建川先生が近付いてくる。
 私はそれを止める事も、拒否する事も出来なかった。

 ただ、建川先生の言葉に囚われていた。

(私が死ぬと言う事は、あの子に対する冒涜?)

 意味が分からない。

 そんな私に構う事無く、先生の言葉はつらつらと続く。

「なんの為に君の子は天に召されたのだと思う。それは君が生き延び、もう一度この世に産まれてくる為だ。なのにそれを自らの思いだけを優先して、無視すると言うのか。」

 すうっと、息を吸い込んだかと思えば、建川先生は次の瞬間、大きな声で叫んだ。

「甘えるのもいい加減にしなさい、吉乃。君にはやらなければならない事がまだ残っているだろう」

 その叫びは、心から、魂からの叫びだった。
 この世を悲観しないで欲しい。どうか生き延びて、生きて欲しいと言う、純粋な思い。

 その純粋な思いが、声が、願いが、私の頑なに歪んでいた心が解けていく。

「君はいつも自分で重荷を背負い過ぎだ。生物はどうして男と女の二つの性に分かれて、この世に生を受ける意味を知っているかい?」

「・・・知らない。」

「だろうね。知っていたら、こんなバカな事はしないだろうさ。――ご覧。」

 フェンスにしがみつく私を、そっとフェンスから離すように抱き上げ、建川先生は、私に智を見るように言った。その言葉に従い、そろそろと視線を向ければ、とても傷ついた瞳をしていた。

 あんな瞳で、ずっと見ていたのだろうか。あの人は、智は。

「男は女に母性を求め、女は男に強さを求め、互いに寄り添い、協力していく事で全てが上手くいくようになっている。一人では、同性だけでは生きていけないんだよ?解るね?」

「もう、間に合わないかもしれない・・・。」

 ここで素直に頷けたら苦労はしない。

 何処までもネガティブな私に、先生は苦笑した。

「もう、正直になっていいんだよ。寂しかったら寂しい、嫌なら嫌、好きなら好きだと叫んでも良いんだ。それを咎めるヒトはもういないんだから。」

 だから、素直に甘えなさい、甘えても良いんだと言われ、私の涙線は崩壊した。


 ずっと寂しかった。
 苦しかった。
 辛かった。

 一緒に映画も行きたかった。
 いろんな所に行きたかった。
 私だけを見て、愛して欲しかった。

 一緒に、悲しんで欲しかった。


 たったそれだけだったのに・・・。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、智、ごめんなさい・・・っ」

 建川先生の腕の中で激しく泣きじゃくりながら、私は暫く子供還りしたかのように泣き続けた。



 そして雪は、いつの間にか止んでいた。
 
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