Si je tombe dans l'amour avec vous
C-5-5 孤独
息が苦しい、身体が冷たい、寂しい・・・。
*
*
ゆるゆると重い瞼を上げ、瞳を開けば、ここにいる筈のない人がいた。
どうしてだとか、久しぶりとか、逢いたかっただとか、そんな陳腐で安い言葉なんて思いつかなかった。
感じたのは、思ったのは、【今更】と言う感情。
三流ドラマか、ありがちな恋愛小説なら、涙を流し、抱擁を交わすシーンだろうが、生憎と今の私にはそんな思いは無い。
私は視界に入っていた人から意図的に視線を外し、色々なチューブや管に繋がれた自分の身体を呪わしく思いながら、少しだけ動く手でお腹を撫でてみて、愕然とした。
(え・・・?)
どうして真っ平らなんだろうか。さっきまでは確かにここで息づいていたのに。
何度も確かめる様に撫でるが、結果は変わらない。
「どうして・・・?あの子は・・・?あの子は何処にいったの・・・?」
可愛い、愛しい、私の最初で最後の子。
欲しくて、欲しくて、本当に私の最後の希望だったあの子は。
「・・・、目が覚めたのか!?」
「ねぇ、何処にいったの?知ってるんでしょ?」
目覚めたかどうかなんてみれば解るだろうに。そんな事も一々言わなければ解らないのだろうか。それより大切な事があるのに。
問いかけた答えを待つ間、ピっ、ピっ、と、規則正しく鳴る心電図の音が、やけに耳に付く。
「良かった・・・。どうやら峠は越えた様ね?」
失礼するわね、と、酷く安堵したような表情を浮かべた先生が、あの人を押しやるよう退かし、脈をとり、美しい笑みを湛えたかと思えば。
「良く頑張ったわね。子供は今回は残念だったけど、まだチャンスはあるわ。気を落さないで?」
知らされた真実に、私の心は深い悲しみに襲われた。
そんなのってない、そんな事、信じたくない。なんて、言えなかった。
頭が、心が、感情を曝け出す事を拒否していたから。
例え今、愛してると言われても、嬉しいなんて思えないし、思うワケもない。
もし言われたとしても、私は返事を返さない。
だって、今の私が必要としているのは・・・。
「済まない、吉乃。俺が、」
「何が、済まないの・・・?」
そうよ。どうしてあなたが私に謝るワケ?
あなたは私に何か悪い事でもしたの?
違うわよね?
なのに、どうしてそんな辛そうな顔で、何度も謝るの?
――本当に辛いのは、私なのに!!
そう感じた途端、私は先生に無理を承知の上で、身体を起こして貰う様に頼み、少しだけと言う条件付きで起こして貰い、久方ぶりに智と向きあった。
言ってやりたい事、伝えたい事があったから。
だと言うのに、彼は本当に無神経で、相変わらずだった。
「ねぇ、なんでそんなに謝るの・・・?私はあなたを責めてなんかないのに。」
「吉乃、今回の事は、いや、これまでの事は、これから一生を掛けて、償うから、」
――償う。
そう、そうなの。
あなたは私に償わなければならないと感じ、思っている訳ね?
でもそれはあくまでも、私に対してだけよね?
(そんなの要らないッ!!)
子供を失った喪失感と孤独が混じり合い、ドロドロと黒くなっていくのを感じながら、私は鼻で嗤ってやった。(その時の笑みは、本当に恐ろしい程に凄絶だった。と、後に散々聞かせられる羽目になるほど凄かったらしい。)
「償いたければ、お一人でどうぞ?あぁ、それより私の事などもう忘れて下さっても良いんですよ?私なんか忘れて、ご結婚でもしたらどうです?」
「吉乃、」
「気安く、吉乃、なんて呼ばないで下さい。貴方の顔なんて金輪際、一瞬たりとも見たくありません。出て行って!!」
一度破裂した風船は、二度と元のようには戻れない。
いくら固めたとはいえ、砂で作ったお城は、波に呑まれてしまえば跡形なく消えてしまう。
それと同じように私の心は乱れ、荒れていく。
グッ、と枕を掴み、顔を狙って投げる。
謝罪なんかいらない。
償いも要らない。
私が欲しかったのはそんなのじゃない。
勿論、慰めなんかでもなかった。
欲しかったのは・・・。
「あなたの、あなたなんかの子供なんて、孕むんじゃなかった。この人でなし!!」
ただ一言、あの子に謝って欲しかった。
守れなくて、ごめん。
気付いて、助けてやれなくて、ごめん、と。
私が手のつけようもないほど癇癪を起したのを見て、これ以上は危険だと判断したのか、先生は嘗ては私の夫であった人を、半ば強引に引き摺る様にして、部屋から出っていいた。
後に残されたのは、絶望にくれ、涙を流し続ける私と、私が暴れた事でぐちゃぐちゃに乱れた部屋だけ。
誰も知らない。
一度絶望を味わった人間が、何を望み、どんな事をするのかを。
だから、先生も私を一人にした。
深い闇と、絶望と言う名の、奈落の底に落ちた私を一人だけを残して・・・。
どうしてだとか、久しぶりとか、逢いたかっただとか、そんな陳腐で安い言葉なんて思いつかなかった。
感じたのは、思ったのは、【今更】と言う感情。
三流ドラマか、ありがちな恋愛小説なら、涙を流し、抱擁を交わすシーンだろうが、生憎と今の私にはそんな思いは無い。
私は視界に入っていた人から意図的に視線を外し、色々なチューブや管に繋がれた自分の身体を呪わしく思いながら、少しだけ動く手でお腹を撫でてみて、愕然とした。
(え・・・?)
どうして真っ平らなんだろうか。さっきまでは確かにここで息づいていたのに。
何度も確かめる様に撫でるが、結果は変わらない。
「どうして・・・?あの子は・・・?あの子は何処にいったの・・・?」
可愛い、愛しい、私の最初で最後の子。
欲しくて、欲しくて、本当に私の最後の希望だったあの子は。
「・・・、目が覚めたのか!?」
「ねぇ、何処にいったの?知ってるんでしょ?」
目覚めたかどうかなんてみれば解るだろうに。そんな事も一々言わなければ解らないのだろうか。それより大切な事があるのに。
問いかけた答えを待つ間、ピっ、ピっ、と、規則正しく鳴る心電図の音が、やけに耳に付く。
「良かった・・・。どうやら峠は越えた様ね?」
失礼するわね、と、酷く安堵したような表情を浮かべた先生が、あの人を押しやるよう退かし、脈をとり、美しい笑みを湛えたかと思えば。
「良く頑張ったわね。子供は今回は残念だったけど、まだチャンスはあるわ。気を落さないで?」
知らされた真実に、私の心は深い悲しみに襲われた。
そんなのってない、そんな事、信じたくない。なんて、言えなかった。
頭が、心が、感情を曝け出す事を拒否していたから。
例え今、愛してると言われても、嬉しいなんて思えないし、思うワケもない。
もし言われたとしても、私は返事を返さない。
だって、今の私が必要としているのは・・・。
「済まない、吉乃。俺が、」
「何が、済まないの・・・?」
そうよ。どうしてあなたが私に謝るワケ?
あなたは私に何か悪い事でもしたの?
違うわよね?
なのに、どうしてそんな辛そうな顔で、何度も謝るの?
――本当に辛いのは、私なのに!!
そう感じた途端、私は先生に無理を承知の上で、身体を起こして貰う様に頼み、少しだけと言う条件付きで起こして貰い、久方ぶりに智と向きあった。
言ってやりたい事、伝えたい事があったから。
だと言うのに、彼は本当に無神経で、相変わらずだった。
「ねぇ、なんでそんなに謝るの・・・?私はあなたを責めてなんかないのに。」
「吉乃、今回の事は、いや、これまでの事は、これから一生を掛けて、償うから、」
――償う。
そう、そうなの。
あなたは私に償わなければならないと感じ、思っている訳ね?
でもそれはあくまでも、私に対してだけよね?
(そんなの要らないッ!!)
子供を失った喪失感と孤独が混じり合い、ドロドロと黒くなっていくのを感じながら、私は鼻で嗤ってやった。(その時の笑みは、本当に恐ろしい程に凄絶だった。と、後に散々聞かせられる羽目になるほど凄かったらしい。)
「償いたければ、お一人でどうぞ?あぁ、それより私の事などもう忘れて下さっても良いんですよ?私なんか忘れて、ご結婚でもしたらどうです?」
「吉乃、」
「気安く、吉乃、なんて呼ばないで下さい。貴方の顔なんて金輪際、一瞬たりとも見たくありません。出て行って!!」
一度破裂した風船は、二度と元のようには戻れない。
いくら固めたとはいえ、砂で作ったお城は、波に呑まれてしまえば跡形なく消えてしまう。
それと同じように私の心は乱れ、荒れていく。
グッ、と枕を掴み、顔を狙って投げる。
謝罪なんかいらない。
償いも要らない。
私が欲しかったのはそんなのじゃない。
勿論、慰めなんかでもなかった。
欲しかったのは・・・。
「あなたの、あなたなんかの子供なんて、孕むんじゃなかった。この人でなし!!」
ただ一言、あの子に謝って欲しかった。
守れなくて、ごめん。
気付いて、助けてやれなくて、ごめん、と。
私が手のつけようもないほど癇癪を起したのを見て、これ以上は危険だと判断したのか、先生は嘗ては私の夫であった人を、半ば強引に引き摺る様にして、部屋から出っていいた。
後に残されたのは、絶望にくれ、涙を流し続ける私と、私が暴れた事でぐちゃぐちゃに乱れた部屋だけ。
誰も知らない。
一度絶望を味わった人間が、何を望み、どんな事をするのかを。
だから、先生も私を一人にした。
深い闇と、絶望と言う名の、奈落の底に落ちた私を一人だけを残して・・・。
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