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Si je tombe dans l'amour avec vous

C-4-14 事務室で・・・⑤

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 浅く繰り返される呼吸。
 止まらない涙と、後悔。そして寂寥感。

 毎朝、時間を掛けて塗っているマスカラが、涙で剥がれ、まっ黒な涙となり一緒に流れ落ちる。

「貴女がそこまで思いつめていただなんて・・・。」

 

その涙を見た侑里音さんは、後悔に染まリきった声で言葉を紡いだ。

 その声に顔を上げ、私が目にしたのは、あやめちゃんが私の知らない男性にしがみつく姿、紘人さんの苦り切った表情、そして、憔悴しきった侑里音さんの姿だった。

 綺麗にまとめられていたはずの髪は微かに乱れ、口紅は全て剥がれ落ち、、マスカラは私と同じく、黒い涙と化していた。

「もう聞かないわ、責めたりもしない。それより、私は貴女に謝らなきゃならないわ。」

 ごめんなさい、と、発せられた声は、弱々しく、覇気もなかった。

「お腹に、赤ちゃんがいるのに、興奮が母体に悪いって解っていたのに、一時の感情で、私はその新しい命をも顧みずに、危険な身にさらしてしまった」

 判っていたのにね・・・と、呟く彼女の表情は、本当に辛そうだった。

「貴女が優しすぎて、あの誰よりも人を愛そうとしない智を、心の底から愛している事を知っていたのに・・・、それなのに、私は貴女を疑い、憎んでしまった。」

「咲田さん・・・。」

「もう、名前では呼んではくれないのね・・・」

 私が名前で呼ばなかった事に、侑里音さんはポロリと、涙を一つ零した。

 ここで名前を呼べば彼女が安心する事は知ってはいたけど、私にはそれが出来なかった。
 どうしてかなんて判らない。もしかしたらそんな大した理由なんてないのかもしれない。
 
 だけど、一つだけ言えるとしたのなら。

「私はもう、綾橋でもなく、菜々宮でもなく、【平】で、ただの、ここの保育所の事務員で、保育士ですから・・・。例えお腹の子の父親が、綾橋家の血を引いていたとしても、離婚手続きが済んでいる今、私は綾橋家とは無関係ですので・・・。」

 そう。
 離婚してしまい、綾橋家と無関係になってしまった今の私に、昔の様な馴れ馴れしい態度は取れない。

 例え独り善がりだと罵られても、逃げているだけだと非難されようとも、態度を翻したりなんかしない。


 私のその考えを感じ取ったのか、侑里音さんは目を閉じ、次に目を開いた時には、一人の母親として私の顔を見つめてきた。

 そして、静に口を開いた。





 私が淹れなおした紅茶の入ったティーカップに口をつけながら、壱位 紀絃《いちい きいと》と名乗った男性は、あやめちゃんの黒い髪を撫でながら、転入の理由を実に淡々と、なおかつ、事務的に判り易く説明してくれた。

(因みに説明が始まる前に侑里音さんは化粧を直し、私は過呼吸になり掛けた呼吸を、なんとか平常に戻す事が出来た。そして、落ち着いたところで、説明がなされた。)

 紀絃さん曰く、あやめちゃんは今通っている保育所でいじめに逢い、辛い思いをしていた。
 それだけなら転園はしなかったけれど、侑里音さんと復縁する事にしたから、どうせなら、新居の近くに転園しようと決めたそうだ。
 
 新しい環境と、新しい生活のスタート。

 それをここに選んで貰えた事は嬉しいが、本音としては少し複雑でもある。

 やり直せる家族、やり直そうとした夫婦もいれば、お互いの手を離してしまった私達夫婦。
 羨ましいと思わなければ、それはある種の『偽り』だろう。

 ノートに紀絃さんの語ってくれた事情と理由をしっかりと記載しながら、口元に右手をあてる。
 左手にはボールペンと、転入者待機リストの一覧。

 ここの保育所は、乳幼児(0歳3ヶ月)から預かっていて、あやめちゃんの年頃の女の子は意外と少ない。
 どちらかと言えば、年下の子達や、年上の子達が多い。
 それに、知っているだろうか。

「当施設は一度入園が決まり、入園してしまえば、いくら親同士が仲が悪いとはいえ、クラス替えやら行事に口出しをする事は禁止させて頂いております。保育所はあくまで子供達が最優先です。それでも?」

「はい。これ以上娘を、あやめを、辛い目に逢わせたくないんです。」

「・・・、そうですか。あやめちゃん、あなたはこのままここに転入しても良いの?」

 私のこの問いに、あやめちゃんは大きな目をパチパチと瞬きさせた。
 どんな意味なのか判らないのだろう。

 私はあやめちゃんと視線をしかっリと合わせ、ゆっくり、言い含めるように言った。

「いじめられてたんですってね。あなたはそのままここに転園してしまえば、もう傷つかなくて済むかもしれない。だけど、今までいた所のお友達はどう?あなたをいじめた事を謝れないまま、悪いと思えないまま、大人になってしまうかもしれないわ。それでいいと思う?」

 私の静かな問いかけに、あやめちゃんは小さな頭を悩ませ、やがて、小さな声で「ダメだと思う」と、呟いた。

 私はあやめちゃんのその言葉に嬉しくなって、笑みを深めた。

「そうね。それは悲しいし、ダメな事よね。いけない事よね。」

 勿論、そう思わない人もこの広い世の中にはいるだろうけれど、ここの教育方針は違う。

 いじめた子にはそのいじめてしまった相手に謝る勇気を。
 また、いじめられた子には、いじめた子を許す寛容さを。

 決して人を恨まず、妬まず、人を、モノを、大切な人達を慈しむ気持ちを、大切に育む事に力を入れている。

 その経営理念を聞かされた時、私は改め、この保育所に入れた事を嬉しく思った。

「あやめちゃんをいじめた子は、もしかしたら何気ないあやめちゃんの言葉に、行動で心が傷ついてしまったのかも知れないし、ただ、あやめちゃんの事が羨ましかっただけなのかもしれない。いじめた理由も、いじめられた理由判らないけど、あやめちゃんは、その子達ともう一度向き直してみる気はない?」

 遠まわしに転入を断っている訳ではない。
 ここの施設ではみんながそういう風に対応してきたというのだから、私もそれに倣うまで。

 きょどきょどと、あちこち彷徨っていたあやめちゃんの目が、私と合わさった時、その激しい物音は、事務室中に派手に響いた。
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