スポンサー広告

スポンサーサイト

 ←C-4-10 事務室で・・・① →C-4-8 新しい職場①
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png あいさつ
もくじ  3kaku_s_L.png My Girl
  • 【C-4-10 事務室で・・・①】へ
  • 【C-4-8 新しい職場①】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit

Si je tombe dans l'amour avec vous

C-4-9 新しい職場②

 ←C-4-10 事務室で・・・① →C-4-8 新しい職場①
「すーちゃん、次はなに?」

 園児達に求められるまま、チューリップや、小犬のワルツを弾き終わった私に、そう言葉を掛けたのは、私が今勤めている【ひなた保育所】の中で、一番若い女の子、――椎名 すばるちゃん、19歳、保育士として勉強中――の腕の中で、キラキラと団栗の様な大きな瞳を輝かせている女の子だった。

 

 そしてその女の子は、何の因果なのか、あの女の娘である万菜ちゃんだった。

 最初に万菜ちゃんをここで見た時、私は目に見えるはずのない存在である神様や先祖を恨んだ。

 どれだけ私を虐め、傷めつけ、悲しませ、苦しめれば気が済むのかと。

 けど、そんな私をそんなジレンマと苦しみから救ってくれたのは、他でもない、万菜ちゃん本人だった。

 万菜ちゃんは私を見上げるなり、頭を下げて謝った。
 今でもその時の事は、克明に覚えている。

『ごめんなさい、ごめんなさい、ママが・・・、ママが・・・。』

 大人の視線を恐れているかのように、萎縮しながらも、それでも繰り返し謝り、頭を下げる彼女に、私は過去の自分を見た様な気がした。


 ――叩かれるんじゃないか、縛られるんじゃないのか、食事が貰えないんじゃないないか・・・。

 

 それは虐待を受けている子からしか感じられず、持っていない、特有の雰囲気だった。

 その空気を感じ取ってしまった瞬間、私は自分で自分が恥ずかしくなった。

(この子は悪くないのに・・・。)

 そう思えてしまえれば、私は視線を合わせ、よろしくね、と、優しく微笑む事が出来た。
 
 万菜ちゃんは万菜ちゃんで、その日からは私の事を『すーちゃん』と呼び、慕ってくれている。

 因みに、ここの保育所では、先生達は愛称で呼ばれていて、私は好きな花が<すみれ>だと、園児達の前で自己紹介したら、それならと一斉に『すみれ先生だね』と言われ、名付けてくれた。

 園児達の保護者にも、私は『平 すみれ』と、今では認識されていて、本名だと思われている。

 それはきっと、先生達の言動にも原因があると思う。
 何しろ。

「すみれ先生、万菜ちゃんのお帰りの支度をお願いします。」

 次は何を弾こうかと考えている所に、そう言って、ひょっこりと姿を現したのは、優しい雰囲気と笑窪が特徴で、少しぽっちゃりしている小西先生だった。

 私はその小西先生の言葉に思わず、苦笑いを漏らしてしまった。

「また私ですか?小西先生」

「だって、すばるちゃんは学生だし、あっ君は今忙しいし、私はあの人苦手だから。」

「だったら、」

「あ、えいちゃんは赤ちゃん達のお世話で忙しいし、所長は来客中だから無理。」

 先手を奪われ、がっくりと肩を落とす暇もなく、私はすばるちゃんの腕の中にいる万菜ちゃんに声を掛け、次に、他の子達にも声を掛けた。

「今日はこれでおしまい。あとはこにっちゃん先生に本を読んで貰ってね」

 背に背負った赤ちゃんを気にしつつ、万菜ちゃんの手を引き、【せんせいたちのおへや】と書かれた事務室に行き、今日の分のお便りと記入済みの連絡帳を持ち、万菜ちゃんの鞄と上着のある部屋に行き、身支度を整えさせ、万菜ちゃんを迎えに来たと言う人の前に立った。

「お迎えありがとうございます。」

「――、お嬢様はどうでしたか・・・?」 

「今日もとてもいい子でしたよ。ご飯もたくさん食べて、体重も標準に近づいてきました。」

「そうですか・・・。」

 いつもいつも、この時ばかりは油断がならない。

 何故なら万菜ちゃんを毎回送り迎えしている人は、私の元婚家の人達で、特に今私の目の前にいて、背筋をピシッと伸ばし、立っている男性は、お義父様と智からの信頼が厚い使用人の長でもある執事の川幡 総真《かわばた そうま》さん、76歳。

 彼の前では、誰も嘘がつけない。

 その理由は、彼は利き足を怪我さえしていなければ、今頃は警察の元官僚として、悠々自適の生活を送っていただろうから。

 それでも必死に嘘をつき続ける私は、彼から見れば、生まれたてのヒヨコの様なものなのだろう。

 最初、この川幡さんが万菜ちゃんを迎えに来た時は、我ながら呆れるくらい勝手に胸を痛め、涙を流してしまったけれど、昨日離婚届を正式に受理された今では、もう胸も痛まない。

 感じるのは、切なさと、僅かな寂寥感だけ。
 それ以外はもう感じられない。

 それより、私が気に掛るのは。

「また、傷が増えてらっしゃるようなのですが?改善されなければ、警察に通報することになりますよ?」

「・・・っ、申し訳、ございません・・・、おくさ、」

「城花さん、謝る相手は万菜ちゃんです。一介の保育士に謝るくらいなら、改善して下さい。県や国の視察の方々が来て、指摘でもされたら庇いきれませんので。」

 奥様、と、言い掛けた川幡さんの言葉尻を切って、私は忠告をして、万菜ちゃんに微笑み、抱きしめた。

 その時、少し吐き気がしたのは、きっと私がお腹の子の事を少し忘れたからだろう。

 その吐き気に苦笑を洩らし、私は川幡さんと万菜ちゃんが帰り、後ろ姿が見えなくなるまで、外に立ち続けた。
 
スポンサーサイト
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png あいさつ
もくじ  3kaku_s_L.png My Girl
  • 【C-4-10 事務室で・・・①】へ
  • 【C-4-8 新しい職場①】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【C-4-10 事務室で・・・①】へ
  • 【C-4-8 新しい職場①】へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。