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Si je tombe dans l'amour avec vous

C-2-10 ひと時の団欒②

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この人の温もりさえあれば、生きていけると思ったのは、いつからだっただろうか。



 
  


 「ごめんなさい、どうしても私一人で行きたかったから。今はまだ詳しくは言えないけど、私のご先祖様に報告とお礼の挨拶してきたの。」

(私も結局は女なのね。)

 狡猾で、卑怯で、計算して。そんな所をよく動物の狐に例えられる女性。自分だけはそうならないように心掛けていたのに、結局はアッサリとその手段を取ってしまった。

 縋るような口調と眼差しは結婚するまでの23年間で培ってきたものだから、私本人でさえ見抜けない、限りなく本物に近い偽物。

 本当に私が助けて欲しい時は、誰も気づいてはくれないし、誰も私の周りにはいない。
 だから私は他人に期待しないようにずっと生きてきた。
 なのに。

(期待してたの?)

 ここ最近の微温湯の様な生活を送っていた私は、いつもなら背中にすぐに智の両腕が回るのに、今回はそれがなかった、と悲しく思い、それがまた、私自身を卑屈にさせ、弱くさせる。

(身勝手なくせに、赦してもらおうなんて思ってなんてなかったのに。)

 私と智の間に流れた沈黙は、ここ一・二ヶ月の中では、一番長かったと思う。

 そのせいか、私は無意識に抱きついていた智から離れ、後ろに一歩後退し、顔を俯けていた。
 
 まるで、以前のように冷え切った関係に戻ってしまうのではないかと、思ってしまうくらいの冷たい空気と沈黙。
 その異様な緊張感を孕んだ状況を、呆気なく打破してくれたのは、いつでも無邪気で悪気のない、小さな天使のあやめちゃんだった。

「おねえちゃん、なくひつようなんてないよ?おねえちゃんはわるくないし、おにいちゃんは、おねえちゃんにおいていかれてすねてるだけだもん。」

 私の身体にぴとっと張り付いてきたあやめちゃんの体温に勇気づけられ、私はそこでようやく智の顔を窺い見た。

 智の表情は、いつにもまして無表情に近く、それでも眉間の皺は常より深く刻み込まれ、瞳には不満げな色が浮かんでいた。

 きっと、ここは結局許してくれるだろう智に、ありがとうと本来なら言うべき処なのだろう。けど、智は視線を合わせてくれない。
 
 これがおそらくは、智が、私が勝手な真似をしたことに対しての報復と仕返し。

(なら、私もその空気に従うまで。)

 私は智の顔から視線を離し、私に抱きついてるあやめちゃんの頭に手を乗せ、その頭を優しく、でも、少しだけ拗ねたように撫で、よっ、と、力を込め抱きあげた。

「あやめちゃん、今日は一緒に寝てくれる?お姉ちゃん、一人だと寒くて寝れないの。」
 
 あやめちゃんがとびっきりの笑顔を浮かべた時、私はあやめちゃんの体温で癒されていた。

 あやめちゃんだけではないだろうけど、特に小さな子供の温もりは、私を慰め、癒し、勇気づけてくれて、幸せにしてくれる。

 だから、本音が言葉として、無意識にでも出ていたのだと思う。

「私もあやめちゃんみたいな可愛い女の子が欲しかったな。」

 その、諦めにも似た弱々しい呟きは、皆にも聞こえていたのだと思う。なかでも、あやめちゃんは弱々しくも、近くにいたことで、よりダイレクトに聞こえていたと思う。

 私が独自に病気の事を調べているのは、弁護士の紘人さんしか知らない事で、その紘人さんは、常に私の行動に協力的で、時には助言したり、私がしたミスもフォローもしてくれる。

 現に、今もざわりと、異様な雰囲気と荒れた空気になりそうなところを、自然を装い、上手い言葉で私を援護してくれた。

「産めばいいのでは?まだ若いのですから、幾らでも産めるでしょうに。世間には40歳を超えても出産する事も珍しくなくなってきてるんですから。なんなら、産み分けの方法でも調べてみては如何です?」

 ――不用意に、言葉を漏らすな。

 鋭くも、冷たい紘人さんの眼光に、気押されないように、ごくりと、口の中に溜った唾を飲み込み、引き攣りそうになりながらも、笑顔を崩さず、恥じらいを装いつつ、頷いた。

「そ、そうよね。時間があったら調べてみようかしら。昔から子供は‘一姫二太郎’が良いって言われてるものね。」

 あははは、うふふふ。

 二人して能天気を装い、笑いあえるのは、弁護人と依頼主と言うだけの信頼関係だけではなく、年齢的要素もあると思う。

 その証拠に、私と紘人さんの携帯のストラップや、携帯の機種まで一緒だったりする。
 但し、これは全くの偶然。

 結局、私と紘人さんの、本音を隠すための冗談混じりの応戦は、途中食事も挟み、家族そっち抜けで交わされ、それが終わったのは夜の十時を過ぎた頃。

「では奥様、また後日挨拶に伺います。――利依さん、奥様の事を宜しくお願いします。」

「いちいち言われなくても、義姉さんの事はアタシと兄さんが守るわよ!!」

 いつもより殺気立って応戦する利依さんに、紘人さんは軽く瞠目し、そして私に苦笑を向けた。

「どうやら我らが綾橋のプリンセスは、ご機嫌斜めの様ですね。」

「まぁ、我らがプリンセスだなんて。そう思ってるんでしたら、一刻も速く事務所の一つや二つを開いて、ここまで上ってらっしゃい。でなければ、どこぞの蛮族に横から盗られてしまいましてよ。頼りになるナイト様?」

「・・・――。」

(勝ったわ!!)

 私のせいでそれが出来ない、遅れているのだという、その非常に恨めし気な睨む紘人さんを、利依さんと(これは私がわざと仕組んだ。)、あやめちゃんのお母さんで、紘人さんの姉・咲田 侑里音《さきた ゆりね》さんに玄関まで送らせた。

「青春ねぇ。若いっていいわねぇ~。利依さん、いつになったら気付くのかしら?」

 ニヤニヤと、いつもより楽しげに悪どく笑う私を、智は不愉快そうに私を見ていた。
 
 実際、私はいつもより大分楽しかった。
 
 何せ、今日私が初めて言い負かした紘人さんは、滅多にそのクールな表情を崩さない、【法曹界の貴公子】と渾名され、色々な感情を向けられている人なのだから。

 その彼を、私が言い負かした。

(これで喜ばない人はきっと詐欺よ。詐欺。)

 ふふふ、と、明るく、悦に入っているように笑えるのは、きっと、あの二人を見ているからだろう。 
 あの二人を見ていると、自然と某猫と鼠の、会話のないアニメを思い出し、笑ってしまえるほど、気分が明るくなる。

 さぞかしあの二人が結婚し、子供でも産まれたらば騒々しいだろう。意外と、彼は焼き餅妬きだから。

(そうなったら、垂涎モノの見ものだわね。)

 にやりと、悪魔の笑いを浮かべ、にょきっと、悪魔の尻尾を生えさせた時(気分的に)、智のその声が聞こえた。

「随分と機嫌が良さそうだな。そんなにアイツが好きか?」

 智の的外れな問い質しも気にならないほど、私はあの二人が大好きで堪らない。

「うふふふ。あの紘人さんの悔しそうな顔、見ものだったわ。人の恋って、素晴しいわね、智。」

「吉乃、答えになってない・・・てっ、まさか?」

 私の顔を再度見て、智は自分の顔をその大きな手で覆い、大きな溜息を吐いて、苦笑に近い笑みを浮かべた。

「まさか、あの利依が、あの紘人にな・・・。アイツは昔から紘人には、常に歯向かってはいたが、まさかそれが・・・」

 それが好意の裏返しだと思わなかったのも、考えなかったのも、智らしいと思う。

 先が思い遣られると、深く溜め息をついた智は、ソファーに座りなおし、グラスに注いであったミネラルウォーターを一気に飲み干した。

 智は余程驚き、困惑したのか、立て続けに水を飲み干した。
 
「そんなに驚く事かしら?私にはあの二人が、結構お似合いだと思うんだけど。」

 智が驚くほど、私は驚かなかった。

 二人が従兄妹だという前に、私には、最初から互に恋しあう男女にしか見えなかった。
 
 二人は立派な成人なのだから、私や周りの人間が心配しなくても、結婚しようと思うなら結婚できる。

 出来る事なら、二人が結婚し、子供が生まれるまでは生きていたい。

 でも。
 
 思い出すのは、退院が近付いたある日の、あの日、あの時、目にし、耳にした言葉。

 幾ら名医だと言われてはいても、私を蝕んでいた病魔は、悪性のモノ。
 
 先生は再発の可能性が低くなると言っただけで、再発は絶対しないと、誰も言っていないし、断言もしていない。

 智や家族達は優しすぎる。
 その優しさすぎる智達の心を守るため、私は知らない振りをし、その時まで貫き通す。

 私は偶然話を聞いてしまった日に、それを誓い、その翌日に、先生達には、絶対に私以外の他の人にはこの事を言わないように、必死に頼み込んだ。
 
 私の必死さを理解してくれたのか、先生達は渋々頷いてくれた。

『奥様、この事は・・・。』

『判ってるわ。私達は何も見なかった、聞かなかった。茨姫の様に、時が来るまで目を瞑り、耳を閉ざし、その時まで、健康な【綾橋 吉乃】を演じて、その日を迎えたいの。だから、お願い・・・。」

 誰にも言わないで、と、私は頭を下げた。

 私の隣には、紘人さんがいた。
 その時の紘人さんは、私のその言動を黙殺し、誰にも言わなかった。
 
 彼は、本気で人の嫌がる事は決してしない。
 だからこそ、彼を弁護人に選んだ。

 過去の日を思い出し、沈みこんでいた私を正気にさせたのは、私を包む柑橘系のパルファンの香りと、その声だった。

「何を考えてる・・・、吉乃」

(バカ!!どうして今思い出すのよ!!)
 
 自分で自分が許せない。そんな思いを抱えつつ、私は微笑んだ。

「・・・!も、勿論、それは利依さんのドレス姿よ?あれだけ胸があるなら、ドレスは選びたい放題ね。羨ましいわ。」

 反応が遅れ、私が言葉に躓いたのは、智には気付かなかったと思う。

 何故なら、私が自分の薄い胸を自分で触り、残念そうに溜息を吐いた私を、智は何も言わずに目を逸らしたから。

 私はだから残酷な嘘をつき続け、真実を隠し、闇に覆い隠し通す。

 総ては、私を愛して、心配してくれている人達の為よ。と、自分に言い聞かせながら。


 暗に神は私に告げたのだろう。

 己の身に降りかかった試練に耐え、乗り越えて見せろ。

 と。


 この時の事を、私が幸福感に包まれ、笑いながら「私の人生は、茨の道の様だったわ」と、言う事を、この時の私は思いもしていなかった。

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